豊受大神のものがたり

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食を司る神のはじまり

豊受大神(とようけのおおかみ)は、日本神話において「食の神」として知られ、伊勢神宮・外宮に祀られています。

『古事記』には明確な記述はありませんが、『丹後国風土記』に伝わる丹後国・比沼真名井原(ひぬまないはら)の伝承が最古のものとされています。


比沼真名井原は古くから清水が湧く聖地とされ、「天の真名井」の地上の象徴と考えられました。

ここに天女が舞い降りた際、村人が衣を隠したという羽衣伝説があり、この天女が豊受大神の原像とみなされています。


伊勢神宮への遷座

雄略天皇の御代、天照大御神が天皇の夢に現れ、丹波国の豊受大神を伊勢へ近くに迎えるよう命じた、と伝わります。


この神託を受け、雄略天皇22年9月、勅命により丹波の比沼真名井原から豊受大神を伊勢に迎え、外宮(豊受大神宮)が創建されました。


『止由気宮儀式帳』に「雄略天皇二十二年九月、勅命により豊受大神を伊勢に奉遷す」とあり、この記録が遷座の最古の史料とされています。

これ以後、豊受大神は天照大神の御饌(みけ)を司る御饌都神(みけつかみ)とされ、外宮は「内宮を支える宮」としての地位を確立しました。


元伊勢・比沼真名井原の伝承

丹後の比沼真名井原は、豊受大神が伊勢に遷る以前に祀られていた旧鎮座地とされます。

湧き出る「眞名井の水」は清浄の象徴とされ、伊勢の上御井神社(かみのみいじんじゃ)の「天の真名井の水」と同流と伝えられます。

古代の祭祀では、この水が祓いや神饌の供え水として使われたとみられます。


豊宇賀能売命と羽衣伝説

『丹後国風土記』の逸文によると、豊受大神は豊宇賀能売命(とようかのめのみこと)とも呼ばれます。

八人の天女の一人が比治(ひじ)の山の真名井で水浴びをしていた際、麓の老夫婦が羽衣を隠したため、天に帰れなくなったと伝えられます。

天女は養女として迎えられ、稲作を伝え、病を癒やす酒を造り、家を豊かにしたとされます。


のちに奈具(なぐ)の里へ移り住んだこの天女が、豊宇賀能売命として祀られるようになり、奈具神社の起源とされています。


ゆかりの神社

比沼麻奈為神社(ひぬまないじんじゃ)

所在地:京都府京丹後市

主な祭神:豊受大神

特徴:豊受大神が最初に鎮まったとされる「元伊勢」の中心地。
境内の「真名井の水」は天の真名井に通じると伝えられ、古代祭祀の名残を留めています。

豊受大神宮(とようけだいじんぐう)
〈伊勢神宮・外宮〉

所在地:三重県伊勢市

主な祭神:豊受大神

特徴:雄略天皇の勅命により丹波から勧請された神社。
天照大神の御饌を司る御饌都神を祀り、外宮として伊勢神宮の内宮を補完する役割を担います。

元伊勢 豊受大神社
(もといせ とようけだいじんじゃ)

所在地:京都府宮津市

主な祭神:豊受大神

特徴:豊受大神が伊勢へ遷る前に鎮まっていたとされる古社。
「眞名井の水」が湧く神域があり、伊勢の上御井神社との関係が指摘されています。

奈具神社(なぐじんじゃ)

所在地:京都府宮津市

主な祭神:豊宇賀能売命(とようかのめのみこと)

特徴:羽衣伝説の天女を祀る神社。
奈具の里に移り住んだ豊宇賀能売命を主祭神とし、周辺には関連する古墳や伝承地が残ります。

上御井神社(かみのみいじんじゃ)

所在地:三重県伊勢市

主な祭神:水の神(外宮の摂社)

特徴:外宮の神饌に使う水を供する社で、「天の真名井の水」と同流とされます。
伊勢の食の神事に欠かせない役割を担います。

真名井神社(まないじんじゃ)

所在地:京都府宮津市

主な祭神:豊受大神

特徴:「天の真名井」を名に持つ古社。
境内の泉を御神体とし、豊受大神の清水信仰を今に伝える重要な神社にあたります。

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